dangkangの日記

主に日常,たまに研究と仕事について

The Science of Well-Being

こんにちは、私です。ここ数年新しいテーマで講義資料を作る際にはCourseraで近しいテーマのものを探してまずは自分で世界トップクラスの講義を体感し、フルスコアで修了証をとるという大人気ないことをするのにハマっていて、CourseraがIPOする時には(少額ですが)投資したくらいです。

今日は今年の5-7月くらいに取り組んでいたCourseraのThe Science of Well-Beingを紹介します。Well-beingに関心がある方は巷にあふれているよくわからないハウツー本を読むよりも、最新の科学的知見を伴った上で、洗練された内容でWell-beingに関する実践的的な知識と習慣化のための戦略を獲得できるので非常におすすめです。

Yaleで開講されているこの講義は、10週に及びます。その内容には2つの側面があります。1つは、典型的な講義で、well-beingに関する科学的な知識を提供するもの、もう1つは、その知見を実践に移し、習慣化するとというものです。

10週の講義は5つのパートに分かれています。
 #1. Misconceptions about happiness
 #2. Why our expectations are so bad
 #3. How can we overcome our biases 
 #4. What stuff really increases happiness
 #5. Putting strategies into practice

前半の1から3についてはここでは詳細を割愛するけれども、まず、一般的に幸福につながると思われているもの、例えば、良い仕事、たくさんのお金、素敵なモノ、愛、完璧な身体、完璧な成績は幸福につながらないということを科学的なエビデンスを示しながら論証していきます。

次に、このような誤った概念(miswanting)が生じる5つの不快な特徴(Annoying Featues)が紹介されます。その上で、これらを克服するための2つの戦略が紹介されます。気になった方は実際に講義を受けられるのがよいと思います。

このブログでは後半の4、5について紹介します。実際に幸福度を上げる方法とは何か?そしてそれを習慣化する方法はどういうものか?という部分です。

 

まず、科学的に証明されている幸福度を上げる方法として紹介されているのが次の5つです。しかも全て無料というのがいいですね。順に紹介していきましょう。
1. Kindness
2. Social connection 
3. Time affluence 
4. Mind control
5. Healthy practices

 

1. Kindness
他人に対して親切にすること。
実際の課題では、1週間に7回、他人に対して親切にすることが課されています。

Kindnessとhappinessの関係性に関するエビデンスとなる論文は以下の通り。

Otake et al. (2006). Happy people become happier through kindness: A counting kindnesses intervention. Journal of happiness studies, 7(3), 361-375.
Lyubomirsky (2005). Pursuing happiness: The architecture of sustainable change. Review of general psychology, 9(2), 111.
Dunn et al. (2008). Spending money on others promotes happiness. Science,319 (5870), 1687-1688.

2. Social connection 
社会的な繋がり。
実際の課題では、1日1回新しいつながりを作ることが求められます。英語圏だとこれは簡単ですが、なかなか日本でちょっと知らない人に話しかけるのはハードルが高いですよね。

Social connection とhappinessの関係性に関するエビデンスとなる論文は以下の通り。

Diener & Seligman (2002). Very happy people. Psychological science, 13(1), 81-84.
Epley (2014). Mindwise: Why We Misunderstand What Others Think, Believe, Feel, and Want. New York, NY: Vintage.
Epley & Schroeder (2014). Mistakenly seeking solitude. Journal of Experimental Psychology: General, 143(5), 1980.

3. Time affluence 
何か物事をする(しない)ために十分な時間を確保すること。

Time affluenceとhappinessの関係性に関するエビデンスとなる論文は以下の通り。

Whillans et al. (2016). Valuing time over money is associated with greater happiness. Social Psychological and Personality Science, 7(3), 213-222
Hershfield et al. (2016). People who choose time over money are happier. Social Psychological and Personality Science,7(7), 697-706.
Moligner (2010). The pursuit of happiness: Time, money, and social connection. Psychological Science, Psychological Science 21(9) 1348–1354)]

4. Mind control
我々は実際に行っているタスクから、自ら生み出す思考や感情へとシフト(Mind-wandering)しがちであるため、これを制御する必要があります。ここでは、その代表的な方法として、瞑想が紹介されています。
実際の課題では、1日10分以上の瞑想をすることが求められます。

Mediatationとhappinessの関係性に関するエビデンスとなる論文は以下の通り。

Brewer et al. (2011). Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 108(50), 20254-20259.
Fredrickson et al. (2008). Open hearts build lives: positive emotions, induced through loving-kindness meditation, build consequential personal resources. Journal of personality and social psychology, 95(5), 1045-1062.
Hutcherson et al. (2008). Loving-kindness meditation increases social connectedness. Emotion, 8(5), 720.

5. Healthy practices
ここでは2つの手法、運動と睡眠が紹介されています。
実際の課題では、1日30分以上の運動(散歩など軽めのものも可)と、7時間以上の睡眠が求められます。

Excerciseとhappinessの関係性に関するエビデンスとなる論文は以下の通り。

Babyak et al. (2000). Exercise treatment for major depression: maintenance of therapeutic benefit at 10 months. Psychosomatic medicine, 62(5), 633-638.
Hillman et al. (2008). Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition. Nature reviews neuroscience, 9(1), 58-65.

Sleepとhappinessの関係性に関するエビデンスとなる論文は以下の通り。

Dinges et al. (1997). Cumulative sleepiness, mood disturbance and psychomotor vigilance performance decrements during a week of sleep restricted to 4-5 hours per night. Sleep: Journal of Sleep Research & Sleep Medicine, 20(4), 267-77.
Walker et al. (2002). Practice with sleep makes perfect: sleep-dependent motor skill learning. Neuron, 35(1), 205-211.
Wagner et al. (2004). Sleep inspires insight. Nature, 427(6972), 352-355.

 

さて、何が幸福につながるかということがわかったら、あとはそれらをいかに習慣化するかということが重要です。本講義では2つの戦略が紹介されています。

1. Situation Suport 
第1の戦略は状況によるサポートです。具体的には2つの方法が紹介されています。

#1. Fix bad environments
悪い影響を与える環境を排除します。例えば、ダイエットをしているならば、目に見える場所に食べ物を置かないといったものです。

#2. Promote healthy environments
健全な環境を確保します。例えば、瞑想を忘れないというメモをポストイットに貼ったり、スマートフォンのリマインダー機能を使う。あるいは、知人や友人に現在、自分が取り組んでいること共有するなどといったものです。

2. Goal Setting
第2の戦略はゴール設定です。ここでは3つのステップでゴールを設定する方法が紹介されています。

#1. Goal Specificity
定量的な正確を伴ってゴールを明示的に設定します。

#2. Goal Visualization
ゴールが達成されることで実現できるポジティブな未来の結果を可視化します。

#3. Goal Planning 
ゴールを達成するために、自身を制御する戦略として、"if-then-plan"を検討します。これは、潜在的な障壁を検討し、もしその障害が発生するならば(if)、(then)どうやってそれを克服するかということを事前に検討しておき障壁に備える、といういわば自動化手法です。この手法は、Gabriele Oettingenの"Rethinking Positive Thinking" にWOOPテクニックとして紹介されています。(なぜか和訳本は中古市場で高騰しています。)

WOOP method 
1) think about your "w"ish
2) the best "o"utcome
3) Potential "o"bstacles
4) your if/then "p"lan

 

ここまで読まれた方は、いきなり実践するもよし、ご自分でCourseraのコース(修了証が必要ないならば無料でしかも日本語字幕もあります)を受講するもよしです。この講義の冒頭では、G.I. Joe Fallacyと呼ばれる概念が紹介されています。

The mistaken idea that knowing is half of the battle.
= The mistaken idea that knowing is enough to change your behavior.

つまり、単になにかを知るということは自分の行動を変えるには不十分であり、自分の行動を変えるためには、実践し、習慣化する必要があるということです。

習慣化というのは(日本国内ではあまりみかけませんが)様々なサービスで重要視され、そのためのさまざまな理論が機能として実装されています。というのも、そもそも統計だけみると人間は習慣化に向いていません。たとえばMOOCのコース継続率は5.5%(Chuang, 2017)、フィットネスの1年後の継続率は3.7%(Sperandei et al, 2016)です。また、国内のデータでは、オンライン英語の1年後継続率5.8%(MMD研究所, 2014)というデータもあります。習慣化のための戦略を学んだ上で、習慣化をサポートするアプリを組み合わせるのが今のところよさそうです。

streaksapp.com

それではごきげんよう